中国茶の世界
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■無茶不祭
 中国の南では「無茶不祭」という説が定着しています。 今でも福建省へ行けば、必ず「祭る」時にお茶が登場します。また、中国の「祭る」は厳粛、神聖さが漂っています。中国を旅して現地の人がお線香を持った時の表情を見れば、分かると思います。

  祭る対象は「天地」、「祖先」と「神鬼」です。ここで祭る対象の仏、天公、土地公、神明、祖先、鬼についてを詳しく説明すると長くなりますので省きます。 祭佛、祭天、祭地、祭神、祭仙、祭祖、祭鬼...という風に分けられます。

  お茶が飲用の前に「祭」に使われる説が以前からありました。晋からだとか、 いや絶対隋唐の時代からだというのもあります。茶経以外にも民間での言い伝えがたくさんあるようで、 晋からと唱える人は「神い記」を持ち出し、 唐、宋、明、清そして現代の金庸、古龍の武侠小説まで登場して来ます。金庸、古龍の武侠小説を好む方なら結構いい線までいけるかもしれません。私(見聞)は中学生の時、学校の勉強よりも金庸、古龍の武侠小説を読み漁った思い出があります。あの時、大文豪の魯迅よりも武侠小説家の古龍先生を尊敬していました(爆)。

・以茶敬神、以茶祭祖などは地方によって違います。お茶は神様には使いますが敬神、祖先には使えないという、お茶は神聖至上説もあれば、 お茶を「喪」に最も使え、対象は「祖先」という地方もあります。これは、その地方の習慣であり、 どっちが正しいか間違いかの結論はできません。

・祭の時に3茶3酒の処もあれば、3茶6酒の処もあります。田舎の福建では3茶3酒ですが、 お隣の浙江省では3茶6酒です。9は奇数の中で最も大きい数字で、盛大を意味すると説明されました。 盛大ですね、いかにも中国らしい!スケールを重視。だからテーブル一杯の料理を頼み、一杯食べ残しもします。

・祭に使われるお茶も3種類あります。福建の3茶に使うのは「干茶」、つまり茶葉その物です。2つ目は茶湯です。そして3つ目は茶杯だけという形式的な物です。

・台所にも神様がいると言われ、新茶の釜入りが出来た時に、必ず最初に台所の神様にお茶を差し上げるという習慣が今もあります。

・死んだ人の棺桶の中にお茶で作った茶枕が置く習慣もあります。お茶の殺菌、消毒作用を使った例ですが...意味のない事だと否定する 人もいます。いや、それは枕よりも死者へのプレゼントですよという説もあります。 愛茶人はあの世でもお茶を飲むからだという気遣いです。お茶を持たせる習慣があります。

・福建泉州の回族では「七qiao綿」という物があり、「七qiao」は人間の七つの穴(耳、目と鼻の穴が各二つ、口が一つ、合計して七穴)という言葉でも分かるように、死者の七つの穴(七孔)を 塞ぐ綿の事です。 この「七qiao綿」の原材料の中にお茶が使われています。また、清の皇帝が死んだ時に、お茶が使われた記録も残っています。


■迷魂湯・孟婆茶
 そして、最後に肝心の「迷魂湯・孟婆茶」(忘魂湯とか孟婆湯とか)です。 (^_^)
 人間はそれぞれ「過去・現世と未来」の「3世」(中国語では「前生,今生」と書きます)があるとされています。 仏教の教えでは前世に「借り」があると「現在」(現世)ではその「返し」の為に苦労し、「現世」では殺人などの悪い事をすれば、「未来」(来世)は必ず「地獄」に落ち、良い行いをすれば、未来(来世)はまた人に生まれ変わるとか、天国へ行けるとか.......

 *人が死んで魂が「奈何橋」を通る時に、現世の行いによって通過する橋が異なるそうです。日本語の「三途川」に該当します。

  しかし、人間が死んでまた新しい人に生まれ変わる時に、もし「現世」の事を覚えていれば、大変な事になります! 簡単な話しです:Aさんの祖父が死んで、生まれ変わるとしましょう。しかも、たまたままたAさんの家の子孫として生まれ変わるとしましょう。祖父が死んで、生まれ変わって、今度が子孫になる、変な話しです!そして、もし生まれ変わる人がもし前世は人に殺されて、その恨みを持ったまま、生まれ変わるとしましょう。これもまた大変な話しです。

  そこで登場するのは「迷魂湯・孟婆茶」です。 生まれ変わる人は「黄泉路」を行き、「忘川」という処を通り、そこにかかっている「奈何橋」を渡り、「望郷台」まで行けば、すぐソバにある「孟婆亭」(孟婆荘)で「迷魂湯・孟婆茶」を飲んで、今までの事を何もかも綺麗さっぱり忘れて、 生まれ変わるというルールがあるそうです。
  死者は喜んで迷魂湯・孟婆茶を飲むかどうか、誰にも分かりません!しかし、子孫としては「綺麗さっぱり忘れましょう」というのがよろしくないようです。死んだとは言え、「関係ない」とは難しいですね。世界中にお墓があるじゃないか、 死んで、奇麗サッパリ忘れられ、或いは「絶縁」状態じゃ、先祖のお墓の意味がなくなるかも。「奈何橋」の「奈何」という言葉から見て、溜息を吐いて「仕方なく」飲む物だと推測できます(笑)。

  そこで神聖の物:お茶の出番です!民間では神聖のお茶を死者に持たせれば、あの世で迷魂湯・孟婆茶を飲まなくても良いと信じられています。別に私は飲んだわけではありませんが、伝説中の孟婆茶は「甘、苦、辛、酸と咸」の5つの味がすると記されています。この5つの味って、人生その物ですね。(^^)

孟婆茶(老地方茶坊)
迷魂茶(老地方茶坊)
   
鬼城で販売された孟婆茶・迷魂茶とパッケージ(写真は小田さまの提供)
   
鬼城豐都(老地方茶坊)
鬼城豐都

■孟婆粥

 孟婆粥:中国四川省の「豐都」に「孟婆粥」という有名なお粥が伝えられています。 孟婆茶の伝説と全く同じく、あの世へ行く人は必ず食べなければならない物だそうです。 孟婆粥の材料はお米に、茶湯(水の代わりに)、痩肉とお馴染みのザーサイだそうです。みるからには非常に美味そう(笑) 。私達も何度かその美味しさを再現しようといろんな中国茶を使って挑戦してみました。結果 :台湾の文山包茶が一番よっかた(合う)ようです。

  同じく鬼城豐都には孟婆像も昔は祀られていました。1988年に新たに「孟婆茶樓」が建てられ、観光客を暖かく迎え入れています。普通、決して孟婆茶を飲んではいけませんが、ココの孟婆茶は特別で、人生の全てを綺麗さっぱり忘れる恐ろしい物ではなく、悩みだけ忘れようという願いが込められているそうです(^^)。旅行で行かれる方は是非お土産に買って帰って下さい。

イメージ(老地方茶坊)
孟婆粥ではありませんが、お茶を使って色々挑戦して、美味しいかった!


 このように、
 お茶は私達の日常生活の中に置いて、ごくごく普通の物であり、また非常に特別 な存在でもあったのです!!!



2002年02月のメールマガジンを元に作成。


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